

※本映像は、オプショナルスクリーニングで見つかった患者さんのお母さんのインタビューです。出生後に呼吸障害のため、生まれた産院からオプショナルスクリーニング契約病院に転院され、たまたまオプショナルスクリーニングを受けることができました。当時のお母さんのご経験とオプショナルスクリーニングに対するご意見をうかがいました。
※本映像は、オプショナルスクリーニングの普及と啓発を目的に、クレアリッドHPでのみ公開を許されたものです。本映像を許可なく、編集、複製、転載、放送等する場合は、法的措置を取らせていただきますのでご注意ください。
新生児マス・スクリーニング対象疾患に含まれていない病気について、赤ちゃんにその病気の可能性があるかどうかを調べる検査です。日本で生まれてくる全ての赤ちゃんは、治療しないと命に係わる重い障がいが出る可能性のある先天性の病気について検査をします。これを新生児マス・スクリーニングといいますが、この検査は、厚生労働省などの指導の下で、各自治体が主体となり実施されている公的事業であり、対象疾患は先天代謝異常症を多く含む20疾患です。オプショナルスクリーニングは、新生児マス・スクリーニングの対象になっていない、あなたがオプションで選択できる有料の検査です。
01. オプショナルスクリーニングとは
新生児マス・スクリーニング対象疾患に含まれていない病気について、赤ちゃんにその病気の可能性があるかどうかを調べる検査です。
日本で生まれてくる全ての赤ちゃんは、治療しないと命に係わる重い障がいが出る可能性のある先天性の病気について検査をします。これを新生児マス・スクリーニングといいます。この検査は、厚生労働省などの指導の下で、各自治体が主体となり実施されている公的事業であり、患者さんの費用負担はほとんどありません。対象疾患は先天代謝異常症を多く含む20疾患です。
オプショナルスクリーニングは、新生児マス・スクリーニングの対象になっていない、以下の条件を満たす疾患について、あなたがオプションで選択できる有料の検査(★)です。
1.治療法がある
2.その病気であるかの可能性を調べる精度の高い検査方法がある
3.先天代謝異常症の中でも比較的に患者数が多い
4.病気が発症する前にみつけると治療効果を高め症状を事前に予防したり、重い障がいを防ぐことができる
5.特徴的な症状が少なく、通常の診療で見つけることが難しい
(★)検査にかかる費用については、現在受診されている医療機関にお問い合わせください。
02. 病気を早く見つけることの重要性
病気の症状が現れる前に早く見つけて、適切な時期に治療を行うことで、よりよい治療効果が期待できます。
医学の進歩により、先天性の病気でも治療が可能なものが増えてきました。先天代謝異常症という病気では、酵素補充療法といった薬物治療や造血幹細胞移植、肝臓移植などの移植療法の進歩により治療が可能となった病気がいくつかあります。しかし、治療が可能であっても、症状が出る前に見つけて診断し(これを発症前診断と言います)、早く治療を始めないと、望ましい治療効果が得られない病気があります。また、特徴的な症状が少なく、通常の診療では見つけることが難しい病気もあります。今後、遺伝子治療をはじめとする新しい治療法がどんどん開発されてくると思いますが、どんなに優れた治療法でも適切な時期に治療ができないと、せっかくの治療法を有効に利用することができません。「より効果的な治療法の開発」と「信頼性の高い発症前診断法の開発」は「車の両輪」のようなもので、同時に進めていく必要があります。

03. オプショナルスクリーニングの対象疾患
現在は、ムコ多糖症I型、II型、IVA型、VI型、ファブリー病(男児のみ)、ポンペ病、副腎白質ジストロフィー(男児のみ)、脊髄性筋萎縮症、重症複合免疫不全症の9つの疾患が対象となります。その他の疾患についても順次拡大していく予定です。
私たちは、新生児マス・スクリーニング対象疾患に含まれていない、ムコ多糖症I型、II型、IVA型、VI型、ファブリー病(男児のみ)、ポンペ病、副腎白質ジストロフィー(男児のみ)、脊髄性筋萎縮症、重症複合免疫不全症(★)の9つの疾患についてスクリーニング検査を提供します。これらは非常にまれな病気で、日本全国での総患者数は1500人くらいです。各疾患の詳細についてはガイドブック後半の付録をご覧ください。
実際にあなたのお子さんが上記のいずれかの病気になる可能性はとても低いものですが、あなたのお子さんがこの病気にならないという保証はありません。もし、あなたのお子さんがこの病気を持っていたとしたら、症状が出る前に早く見つけることで、治療法の効果を最大限に引き出すことができます。ぜひこのオプショナルスクリーニングをご検討ください。
(★)上記の9疾患に加えて、その他の先天代謝異常症についても順次オプショナルスクリーニングへ導入する予定です。早期に診断し、治療を行うことが可能な疾患は今後ますます増えていくと予想されます。私たちは、少しでも多くの疾患をできるだけ早くオプショナルスクリーニングに組み込むための開発研究も同時に行っています。オプショナルスクリーニングで使用したろ紙血はこの開発研究の貴重な試料となりますので、使用済みろ紙血の研究利用及び研究成果の公表等についてご理解いただきますようにお願い申し上げます。
05. 検査の結果について
病気が疑われたときは、直ちに採血した医療機関を通じてお知らせします。その際に精密検査による診断や治療ができる医療機関をご紹介します。正常の場合は、採血の日からおおよそ1ヶ月程度で採血した医療機関に結果を郵送します。
オプショナルスクリーニング結果が陽性で、病気が疑われた場合は、本当にその病気かどうかを調べる「診断」プロセスが必要です。私たちがご紹介する医療機関で専門医の診察を受け、精密検査を行ったあと、診断が確定しましたら、適切な治療を受けることができます。
診察と精密検査及び治療は、保険診療の範囲内で行われます。また、お子さんは乳児医療や小児慢性特定疾病の医療費助成制度を利用することができますので、医療費のご負担はほとんどありません。
大切なお子さんを守るため、万が一病気と診断されても、速やかに専門的な治療を受けられるよう、専門医、医療機関、検査施設、その他の医療スタッフが連携をとって支援する体制が整っておりますのでご安心ください。
★オプショナルスクリーニング検査や結果についてご不明な点等ございましたら、一般社団法人「希少疾患の医療と研究を推進する会」までお問い合わせください。
06. スクリーニングと診断の違い
スクリーニングとは、その病気である可能性を確率的に検討する検査です。可能性を検討した後に、精密検査をして、本当にその病気であるかどうかを判定する診断を行います。
スクリーニングとは、病気の人が多い集団(スクリーニング陽性集団)と病気の人がほとんどいない集団(スクリーニング陰性集団)を分けることを意味します。診断とは、本当に病気にかかっているかどうかを判定することを意味します。患者数の少ない稀な病気を持っているかどうか、生まれてくる赤ちゃん全員に精密検査を行うことはできません。まずは、生まれた赤ちゃんが病気の人が多い集団(スクリーニング陽性集団)に入るかどうかをスクリーニングで調べることが必要です。
スクリーニング陽性集団の中には、ごくわずかですが、本当は病気ではない人(偽陽性者)が含まれています。逆に、スクリーニング陰性集団の中には、ごくわずかですが、本当は病気の人(偽陰性者)が含まれています。
オプショナルスクリーニングの検査法は、すでに諸外国(米国や台湾など)で実績のある検査ですので、偽陽性者と偽陰性者は極めて少ないと考えられますが、まったく無いと断言はできません。オプショナルスクリーニングは、「診断」ではなく、可能性を確率的に検討する検査であることをご理解いただきますようお願いいたします。
07. 専門医からご家族へ
今回、皆様にご紹介するオプショナルスクリーニングの対象疾患は、ライソゾーム病やペルオキシソーム病に属します。ここでは、ライソゾーム病やペルオキシソーム病と呼ばれる疾患の病気の成り立ちについてご説明します。
ヒトの体は、約37兆個の細胞からできているといわれています。この細胞の中には、膜で覆われた様々な構造物があり、それらは、細胞内小器官といわれています。核、ミトコンドリア、小胞体は、細胞内小器官に相当します。ライソゾームやペルオキシソームも細胞内小器官です。ライソゾームでは、グリコーゲン、スフィンゴ脂質、ムコ多糖などの分解が行われます。この分解を行うためには、「酵素」が必要となります。ライソゾームのなかには50種類以上の酵素がありますが、この中で特定の一つの酵素が生まれつき働かないような疾患をライソゾーム病といいます。また、ペルオキシソームが生まれつき働かない病気がペルオキシソーム病です。
今回、ご提供するオプショナルスクリーニングの対象疾患は、ライソゾーム病やペルオキシソーム病で標準的な治療法が確立している疾患です。ムコ多糖症、ポンペ病、ファブリ―病はライソゾーム病、副腎白質ジストロフィーはペルオキシソーム病に属します。共通している特徴は、発症早期あるいは発症前から適切な治療を開始することにより良好な治療効果が期待できることです。ライソゾーム病やペルオキシソーム病は、患者数が非常に少ない疾患ですが、あなたのお子さんがこれらの疾患を将来発症しないとは言い切れません。この新生児オプショナルスクリーニングでもしお子さんが将来病気を発症することが判明した場合、適切な時期に治療を開始することによりお子さんの未来は大きく変わります。

大竹 明
(埼玉医科大学小児科)

奥山 虎之
(埼玉医科大学ゲノム医療科 希少疾患ゲノム医療推進講座)

村山 圭
(千葉県こども病院代謝科)

高柳 正樹
(帝京平成大学地域医療学部看護学科)